季節外れの墨田の花火
あじさいは漢字では紫陽花と書きますが、この熟字訓を考えた人は花の雰囲気をよく捉えているものと感心します。たくさんの小さな花が集まってこんもりと丸く咲くあじさいは、曇天の多い梅雨時の庭を明るくする紫の太陽みたいですもの。
写真の紫陽花は「墨田の花火」という萼紫陽花の一種です。梅雨時にふさわしいこの花が、夏の終わりの今、何だかたよりなげな花をひとつだけ咲かせました。前年の剪定を間違ってしまって、この6月には実はひとつも咲かなかったのです。「墨田の花火」が「せめてひとつだけでも見てください」と言っているようです。
萼紫陽花の外側の一見花と見えるのは、中性花といって萼の変化したものだそうです。本当の花は中のほうにある蕾のように見える地味な部分だそうです。中性花は花ではないのに美しい。歌舞伎の女形は本当の女性より美しいというのとちょっと似ています。まやかしの美しさとでも言いましょうか。